安寿の小径

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『「子供をころしてください」という親たち』を読んで

まず、前回の『桜の下で平和を祈る』の中で、有機フッ素化合物を(PTAS)と書きましたが(PFAS)の誤りです。気付いた時には編集できなかったので、今回訂正とお詫びを申し上げます。

 

先日、押川 剛 著 『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫)というショッキングな題名の本を読みました。

著者の押川氏は従来の強制拘束を否定し、対話と説得によって精神を病んだ人を医療につなげ、医療機関に移送するお仕事をされていて、2002年以降、自立支援にも携わっている方です。

 

この本の第一章ドキュメントには、そのお仕事で関わった実際のケースが書かれているのですが、どれもかなり深刻で、読むのがつらくなるほど凄まじいものもあり、追い詰められた親が「子供を殺してください」と言っても、自分がその立場だったら同じことを言うかもしれないという気持ちにさせられます。

 

精神疾患の人なんて自分には関係ないと思いがちですが、この本を読んでみて、実は思いの外、精神医療を必要とする人たちが多いのだと気付かされました。

 

精神医療を必要とするのは、統合失調症うつ病パニック障害などのようにはっきりとした病名が付く人ばかりではないのです。

不登校やひきこもり、無就労、アルコールや薬物依存、ギャンブル、ネット・ゲーム依存、ストーカー、DV、性犯罪、ゴミ屋敷など近隣への迷惑行為を繰り返す人など、本来なら精神科医療を必要としている人たちなのですが、実際に医療機関にかかっている人は多くないようです。

 

ひきこもりだけでも2023年3月の国の発表では15歳から64歳までで146万人もいますし、またコロナ下で家庭内暴力が増えたり、うつ病患者が増加したり、その事を考えただけでも、精神の病気と社会の変化は密接に結びついていると考えるのが自然でしょう。

つまり、精神病は一個人、一家族の問題に矮小化されるべきではなく、まさに社会全体の問題なのだと、この本を読んで痛感しました。

 

ひきこもりなどが心の病であり、精神医療の受診が必要であると、もっと世間的に認知されていけば、本人も家族も救われる人たちが増すに違いありません。

 

しかし、患者を受け入れる日本の精神医療の現場には、解決しなければならない問題がたくさんあります。

国の方針では、なるべく入院期間を短くして、社会や地域で生活できるようにするという事で、入院から3か月たつと診療報酬が引き下げられてしまうため、経営的な理由から多くの病院が長期入院をさせたがりません。

しかも、精神障害を持った人の受け入れ先であるグループホームなどは、365日、24時間体制が必要であるなど難しい面があり、施設が圧倒的に不足しているというのです。

 

それなのに、入院から3か月でまだ病状が安定しておらず、本人自身も自分が病気であるという自覚さえ持てないため、ちゃんと服薬できる状態ではないのに、退院を勧められてしまうというのです。

転院という手もあるそうですが、人間関係を築くのが難しいとか、暴力的だったりとか、手のかかる患者さんほど、転院が難しいのです。もちろん家に戻れば元の状態に戻ってしまいます。

 

両親が高齢だったり、死亡したり、保護者のいないまま地域社会に放り出されてしまう患者たち。

その問題が『行き場のない患者たち』『家族から見放されたらどうなるか?大衆化する事件』に詳しく書かれていて、この問題を家族に押し付けて放置してきた国や行政の無策にいまさらながら怒りを感じます。

日本はあらゆる面において後進国ですね。

 

今まで何人もの女性がストーカーに命を奪われていますが、司法や警察の力では限界があるのは明らかです。

ストーカーを説得して精神医療機関につなげる方が有効だと思いますが、ストーカーや暴力的な近隣住民に怯えていたとしても、被害者は警察以外に相談するところがないのが現実です。

そして警察も人権的な側面から、よほどのことがない限り警察官通報による措置入院という手続きが取りにくいため、悲劇が繰り返されてしまうのです。

 

殺人事件の内、配偶者も含めて親族間の殺人は、2004年から上昇を続け、2013年は全体の53%、半数を超えているそうです。

 

子供や配偶者や家族の暴力に対しても警察を呼んだり相談に行くことはあっても、なかなか精神医療機関には結び付かないといいます。

本人に病気だという認識がない場合、家族の説得で医療機関につなげるのは難しいでしょう。

今までは、困った親が警備会社などに依頼して強制的に患者を病院に入院させるしかなかったのですが、その場合、患者本人の心の傷にもなり、その後の家族関係が悪くなる危険もあるので、押川氏は患者を説得して入院させる仕事を始めたそうです。

 

そう、押川氏は言います。患者と直接会って人間関係を築きながら、本人を説得して医療機関につなげる組織が必要だと。

また、精神の病は暴力など犯罪の危険性も無視できない側面があるので、訓練を受けた警察官OBの組織への参加も心強いと言っています。

 

一日も早く、押川氏が提言するような精神医療のスペシャリスト集団が立ち上がって、身の危険を感じた家族や第三者が、防犯と精神医療が結びついたようなその集団に相談し、医療によって未然に犯罪が回避できるようになってほしいと思います。

 

重いテーマで、すぐには解決できない問題も沢山あるとは思いますが、ここで書かれている問題は他人事ではありません。

今の日本社会で、毎日のように起きていることで、いつ自分の身に起きるか分からない問題です。

出来るだけたくさんの方に関心を持っていただきたくお勧めいたします。ぜひご一読下さい。

定価550円とは思えないほど、あとがきまでぎっしりと内容の詰まった本です。

ちなみに漫画版もあるそうです。

 

 

 

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