友人にも心配されていましたし、私自身も鬱になるのではないかと心配だったのですが、案外ペットロスもそれほどではなく、今はクロが我が家に来る前の生活に戻っています。
クロがいたころは、目覚めるとすぐ、待ち構えていたクロを撫でてやらねばなりません。
最低でも5分は撫でてやらないと恨めしそうに、いつまでもその場所を動かないのです。
それから猫トイレの清掃や餌場の清掃、餌やりなど、忙しい朝の時間を30分近く取られていました。
今はその時間、布団の上で音楽を聴きながらストレッチ体操です。
それは自由で嬉しい時間なのですが、目覚めた時に「あっ、クロはいないんだ」と思い、いるべきものがいないもの足りなさを感じるのです。
夜鳴きに悩まされたり、あちこちに毛玉を吐かれたり、ウンチを踏んだ足で寝具の上を歩かれたり、泣きたくなるような場面もありましたが、そんなことはみんな忘れてしまうもののようです。
クロと暮らした8年の間に身に付いた習慣、例えば、音もなく後ろにいたりするので、バックする時は動く前にまず後ろ下を見るとか、足を組んだり、足を移動させる時は、猫を蹴飛ばさないように注意するとか、室温をこまめに確認するとか、猫のための細かな気遣いが沁みついていて、ふとした瞬間にそれが出て「あっ、クロはいないんだ」と思わされるのです。
自分を縛っていた面倒なものから解き放たれ、何の気遣いも心配もなくなって、いつでも旅行に行けるし「もう余計な心配をしなくていいのだ」と自由になって嬉しいはずなのに、手放しで喜ぶ気持ちにはなれません。
出かけるときも、ふと留守中の猫の心配をしている私、目の隅に黒いものがちらりと見えると、クロかもしれないと反射的にそちらを確認してしまう私。
毎日が深い悲しみに閉ざされているわけではありませんが、料理を食べていて、何か一味足りないような物足りなさを感じている日々です。
精神世界の勉強をしていたおかげで、クロがあちらの世界で幸せに暮らしていると心から信じているので、会えない悲しみはありません。
でも、これっきりですか?
精神世界の本によると、愛する人が亡くなると、亡くなった方からの「私はいなくなってないよ。ここにいるから心配しないで」みたいな合図を、残された人の内、60から70パーセントくらいの人が受け取っているといいます。
私自身も、母が亡くなった後、母のつけていた香水の匂いや風鈴の音などで母から何度も合図をもらいました。
母の死を、母の実家のお墓に報告したとき、風もないのに蘇東坡が「了解!」というようにカタカタ鳴りました。
そんな経験があって、私は死後の世界を確信していますし、死者からのメッセージや合図も確信しています。
動物だって合図を送ってくることがあるのではないでしょうか?
クロがしっかり成仏してくれたことはとてもうれしいのですが、何かもの足りない。
いけないことと思いつつも、そんな思いをずっと引きずっていた昨日の朝、植木に水をやっていると大きなキアゲハがひらひら飛んできて、私の近くを飛び回るのです。植木は葉物ばかりで花はないのに、なかなか去ろうとしません。
そのキアゲハは大きいだけで目立つのに、きれいな黄色に黒い模様のはっきりしたかなり目立つ色をしていました。
後で調べると、普通、夏の終わり近くになると黄色が濃くなるというのですが、そのキアゲハは目の覚めるような美しい黄色でした。
私はすぐにクロだと思いました。亡くなった時、クロ頭の所に黄色い大きなガーベラの花を置いてやったのをすぐに連想したからです。
そのガーベラの花のようなはっきりした黄色が目に飛び込んできたのですから。
「クロ、来てくれたのね。ありがとうね。元気でやるんだよ。」と呼びかけると、私の頭上近くをぐるりと回って、西の方にヒラヒラと優雅に舞い上がりました。
3メートル弱の道路を挟んだ西隣りは3階建ての大きな家です。チョウチョってあんなに高く飛べるんだと思うくらい急上昇して、見えなくなりました。
私は胸がいっぱいになって、通行人の目もはばからず、泣いていました。
クロの気持ちが嬉しかったのです。
でもすぐに、亡くなったばかりの御霊の妨げになるようなことを望んではいけないと反省しました。
クロもあの世で頑張っているのだから、私もメソメソしていられません。
とりあえず、3月から8月に延期になった発表会に向けて、歌の練習をしなければ。
この2月から、なぜだかまったく歌う気になれず、ほとんど練習していませんでしたから。
発表会で歌う歌の一曲の歌詞が問題。
フォーレの『夢のあとに』というとても美しい曲なんですが、一夜の神秘的な出会いを思い返し、
『戻ってきておくれ、輝きよ 戻れ 神秘の夜よ』という歌詞で終わる、大変ロマンチックな歌なのですけれど…。
『戻ってきておくれ』なんて、クロが聞いたら大変。日本語じゃなくてフランス語で歌うので助かりました。
クロには多分、分からないだろうし、私は、慣れない外国語で実感が湧きませんから、舞台の上で泣き出す心配はなさそうです。
頑張ります!
北千住のスピリチュアルな占い師 安 寿