安寿の小径

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「奇跡の歌声」を聴いて

6月8日日曜日、東京オペラシティで、高齢のソプラノ歌手、リナ・ヴァスタさんの『奇跡の歌声』を聴いてきました。


どんな立派なおばあちゃまが出ていらっしゃるのかと思っていたら、本当に小さくて、見たところ、80歳代の半ばを過ぎていらっしゃるのじゃないかと思われる、かわいらしいおばあちゃまが、お弟子さんの一人に手を引かれて出ていらっしゃいました。


グランドピアノに片手を乗せて、ビシッとポーズを決めると、貫録十分。
その美しい歌声は期待以上で、たちまち魅了されてしまいました。
彼女のソプラノはソプラノの中でも特に高音の美しい「コロラチューラ」なのだそうです。


歌い終わり、『ブラボー!』の声があちこちからかかると、笑顔の投げキッスで答えてくれます。やっぱりイタリア女性は明るい!


音楽好きの父の影響もあって、私の家族は皆歌が大好きでした。
私が小学生の頃は、ちょうど歌声運動が盛んで、姉たちが歌うロシア民謡や労働歌を私も自然と覚えてしまい、それが今の私の歌声活動に大きく役立っています。


私自身は歌声喫茶に一度も行ったことがなかったのですが、今、歌声に参加してみると、結構歌えるのです。末っ子に生まれたおかげで、姉たちに感謝です。


ようやく少し時間的にも余裕ができ、3年前から歌声のグループに参加し始め、仲間と歌う事の楽しさを再発見。
歌の仲間には若い頃に合唱団で鍛えた美声の持ち主が多く、私も一度正式に勉強してみたいと思うようになりました。


それで昨年11月、私の誕生日を機に、思い切って、60の手習いならぬ65歳の手習いで、ヴォイストレーニングの個人レッスンを月2回受けることにしたのです。


私一人の為に、芸大卒のプロの先生がピアノを弾いて下るのです。
なんという贅沢!
先生の前で独唱するなんて、中学校の音楽の試験の時以来です。
レッスンの度にいつも緊張して、初めは声が出ない有様でした。
少し慣れてきたところで、半年後の4月29日に予定されている発表会に参加するように、先生にお勧めいただきました。
先生は励ましてくださるのですが、気が重くて重くて…。


それでもその日はやってきてしまい、今年、4月、生まれて初めて、600人規模の(観客は出演者の関係者ばかりだったので100人にも満たなかったと思いますが)大舞台で独唱しました。


長いスカートのおかげで観客には分からなかったようですが、歌い終わるまで全身がたがたと震えていました。
それでもお陰様でなんとか無事、2曲歌い終えましたけど…。
ラソンではありませんが、とにかく最後までやり切れただけでも良かったと安堵しました。


自分で歌ってみて、初めて客席を暗くする意味が分かったような気がします。
リハーサルの時は会場全体が明るかったので、客席が良く見え、緊張してしまいました。
本番の時は観客席が暗くて、自分自身がポツンと一人でいるようで、集中することができました。
ホントに新しい経験には新しい発見がたくさんあります。


歌のレッスン仲間はほとんどが中高年です。私など若い方かも。
中に深刻なご病気を抱えていらっしゃる方がいらして、いつ歌えなくなるか分からないからと、頑張って参加されていました。
そして、素敵なドレスで目を楽しませてくださり、素晴らしい歌声で皆に感動を与えて下さいました。


そんな経験が有ったので、80歳を超えるソプラノ歌手の歌声がぜひ聞きたかったのです。
老齢で歌を始めたので、ある程度年をとっても続けていける希望が欲しかったのかもしれません。
もちろんリナさんは、お若い時に相当ご活躍されたプロのソプラノ歌手なので、素人の私とは全く違いますが、それでも実際に素晴らしいお声を聴いて、とても感動し、励まされました。
嬉しい事に、声帯という筋肉は、一番衰えにくいのだそうです。


リナさんはかなり年上の指揮者とご結婚され、ご主人に反対されて歌手としての活動を停止なさっていたのです。


その事についてリナさんは、「その事を不幸だと思ったことは一度もありません。私の周りには常に音楽が有りましたから。」と、おっしゃっています。
ご自分の人生を、家族のために差し出したのですね。
与えられた状況を受け入れ、そこでしっかりと幸せを見つけていこうと決心し、努力されたのだと思います。


神様はそんなリナさんの自己犠牲を祝福されて、後でちゃんとチャンスを与えて下さいました。


映画にもなったのでご存知の方も多いと思いますが、イタリアには作曲家のヴェルディが私財をなげうって作った音楽家のための老人ホームが有り、リナさんの夫もそこに入ることになったのです。


リナさんとご主人は年齢が大変違い、ホームにはご夫婦で入居なさったのですが、そこではリナさんは場違いに若かったようです。


ホームの人たちが、リナさんの経歴を残念がって、リナさんにもう一度歌手として活動を始めるように皆で勧めたそうです。
そこでリナさんは再び歌い始め、今ではその老人ホームから世界中に演奏旅行に出かけているのです。
素晴らしいお話ですね。


人生死ぬまで、何が起こるか本当に分かりません。
我慢して自分の人生を家族に捧げたからこそ、寿命を頂いて、このお年までご活躍できるのかもしれません。
本当に、棺桶のふたを閉じるまで、希望を失ってはいけないし、自分の望む人生にしていく努力を続けなければいけないのだと思いました。


私だって、自分の未来に、こんな楽しい日々が待っているなんて、4年前には考えてもいなかったのですから。
現在私は2つの合唱グループに属し、あちこちで開かれる歌声喫茶に参加して、歌う事を楽しんだり、歌仲間と旅行やハイキングを楽しんでいます。


仕事ももちろん大切ですが、仕事以外に趣味の世界を持つことが、こんなに人生を豊かにしてくれるものだとはこの年になるまで気づきませんでした。
できればもっと早く合唱でも初めていかったと思いますが、まあ、神様は一番いい時に、一番いい人や物と引き合わせて下さるのですから、私にとって、60歳代がその時だったのでしょう。欲張らない、欲張らない。(自戒)


思いがけない楽しみを与えて下さった神様に感謝感謝です。


                     北千住の占い師   安 寿