安寿の小径

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『グォさんの仮装大賞』を見て

このところ忙しくてなかなか映画を見る暇がなかったのですが、昨日、『グォさんの仮装大賞』という中国映画の試写会に行って来ました。


笑いあり、涙あり、いろいろ示唆にも富んでいて、しかも押し付けがましくなく、見終わった後、じんわりと感動の余韻に包まれました。


今老人の方にも老人が身近にいる方にも将来老人になる方にも、是非見ていただき、老いるという事について考えていただきたいと思うのです。


妻を亡くしたグォさん、それまで住んでいた家を義理の息子夫婦(亡き妻の息子でグォさんとは義理の仲)に明け渡し、妻の写真と植木鉢を持って、友人のチョウさんがいる老人ホームで暮らすことになります。
しかし、そのホームは既に満員で、無理やりチョウさんの部屋に置いてもらうのですが、グォさん用のちゃんとしたベッドもなく、仮のベッドで寝苦しい夜を過ごさなければなりませんでした。


ある夜、グォさんは失禁してしまいます。
隣に寝ている友人を気遣いつつ後始末をし、真夜中、トイレの洗面台で汚れたシーツを洗いながら、グォさんは、安らげる場所もない自分のみじめさに涙するのでした。


しかし、それを知った友人のチョウさんやホームの元大工の老人や仲間たちが、グォさんのためにベッドを作り、女性たちが寝具をプレゼントしてくれ、グォさんはやっと自分の居場所を受け入れるのです。


いつもパフォーマンスでホームの人々を楽しませている友人のチョウさんが、人気テレビ番組の『仮装大賞』への出演を提案し、その練習を通じて老人たちは絆を深め、生き生きとし始めます。


しかし、ケガをする人が出たこともあり、老人たちが遠い天津のテレビ局まで行くことに、ホームの職員や家族らが猛反対します。


表向き、老人たちの身体を心配しての反対なのですが、裏を返せば、ホームの職員も、家族たちも、面倒を起こしたくないのです。


ホームの老人たちは家族と疎遠な人も多く、グォさんも実の息子とは絶縁状態でした。


ホームの職員も、家族たちも、老人たちに衣食住を与え、事故もなく安全に平穏に彼らが余生を過ごし、天寿を全うする事を第一に考えていて、その刺激のない生活にうんざりしている老人たちの心の中までは深く考えていません。
安全のために、老人たちがやっと見つけた生きがいを、危ないからと取り上げようとするのです。


まあ、誰だって職員の立場になったら責任問題が起こるような事態は避けたいでしょう。
家族にしたところで、本来なら自分が世話をすべきだと思い込んでいれば、親をホームに入れてしまった事に負い目を感じ、せめて親が少しでも元気で長生きしてくれたらと願い、親を危険な目に遭わせまいとするでしょう。


仕方のないことかもしれませんが、老人ホームにいる老人たちすべてが、ただ長生きすることだけを望んでいるわけではありません。
人によっては寿命を縮めてでもやりたいことをしたいと望むかもしれません。
チョウさんもそんな人の一人でした。


生きがいを取り上げられた老人たちはあきらめません。
自分たちの夢を実現するために、知恵を絞り、協力しておんぼろバスを手配し、それに乗って、ホームを脱走するのです。


それに気付いた院長は、脱走した老人の家族の車で一緒に追いかけ、彼らを発見します。
院長と家族の人は、そこで老人たちの切実な気持ちを知ることになるのです。


同行することを条件に、院長は老人たちの『仮装大賞』出場を認めます。


家族間の問題にしても、職員や家族たちが一方的に老人たちに自分たちの考えを押し付ける事にしても、全て相手の気持ちを理解していないことが原因なのだと気付かされました。


相手の立場や気持ちが深く理解できれば、許し合えるし、妥協点も見いだせるのです。


日常生活の中ではそのことを忘れ、それぞれが相手の気持ちや考えを軽視し、自分の考えを押し付けようとして、常にどこかで人が争っています。
本当に自戒しなければなりませんね。


『仮装大賞』のコンテスト会場までの道中、様々な事が起こりますが、かれらは底力を発揮して、次々とそれを乗り越え、初志貫徹します。


そして最後に、チョウさんが『仮装大賞』の番組に出演したかった、本当の理由が明らかになります。
このあたり、もう涙なしでは見られません。
その秘密に関しては、映画を見てのお楽しみという事にしましょう。


この映画を見て、つくづく『人はパンのみにて』は生きられないと思いました。
身体が生きていても、心が死んでしまっては生きているとはいえません。
頭は呆けても、感情は豊かでいられるのです。
残念ながら、自分ではコントロールできなくなるようですが。


現在、どういう想念で生きているかが、認知症になった時に表れるのじゃないかと思うのです。
認知症になっても穏やかでニコニコしている人もいれば、しょっちゅう怒鳴っている人もいます。職員さんに暴力を振るったり、噛みついたりする人もいます。
男女は関係ありません。


素敵な痴呆老人になるために、認知症になる前に、人間関係のしこりは取っておいた方がいいですね。
恨みや憎しみは手放しましょう。
許せないと思っている人も、好きになれなくとも、許し、受け入れましょう。
あまり我慢したり、自己規制したりせず、人を恨まず人を受け入れ、愛し、毎日感謝の気持ちで、楽しく生きていれば、認知症になっても、きっと穏やかでいられるでしょう。
年を取ったら特に、常日頃の想念と生き方が本当に大切だと思います。
顔に表れますし、亡くなり方にも表れると言いますから。


チョウさんを自分の夫だと信じこんでいる認知症のおばあちゃんの素敵なこと。
かいがいしく世話をして、幸せそうにチョウさんに寄り添っているのです。
これぞ女の幸せと、妻失格の私をしてそう思わしめるほどのものが有りました。
そのおばあちゃんのように、願わくば、認知症になっても人を愛する心を忘れない人でいたいと思います。


私はあまり中国映画には詳しくないのですが、中国映画界のベテラン俳優が勢ぞろいしているそうで、本当に心に沁みる、味のある俳優さんばかりでした。
それもこの映画を味わい深いものにしています。


帰り道の寒さを忘れるくらいハートがあったまる映画でしたよ。お勧めです!
年明けの1月11日から、シネマート新宿で上映するそうです。



北千住のスピリチュアルな占い師    安 寿