安寿の小径

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ちょっと切なく、ほっこりする話

第28回小学館ノンフィクション大賞に選ばれた『マイホーム山谷』末並俊司著を読みました。

ずっと気になっていた山谷のホスピス『いぼうのいえ』の山本さんご夫妻について書かれた本だと知り、すぐ購入しました。

 

山谷地区は台東区清川、日本堤、東浅草近辺一帯を指す地域の名称です。

山谷地区には『ドヤ』と呼ばれる安い宿が集まり『山谷のドヤ街』と呼ばれていて、戦後の日本経済の底辺を支えた肉体労働者、日雇い労働者が全国各地から集まっていました。

 

私は隅田川を隔てた隣の町に住んでいましたので、子供のころから山谷地区の事は知っています。

今は建設現場でケガをすれば補償がありますが、昔はやくざが人集めをしていたような時代でしたから、下請けの下請けなどで働く労働者には何も補償がなく、死んだら死に損と言われ、ケガをしても治療費ももらえない使い捨てだったそうです。

ですから、ケガで働けなくなった人や仕事にあぶれた人たちが路上にたむろして、昼間からお酒を飲んで路上に座り込んだり寝たりしていて、ちょっと怖い感じの場所でした。

一時は「アタリヤ」と呼ばれる、自分から自動車に飛び込んで治療費を要求するような人たちもいて、タクシーが山谷地区を通るのを嫌がる時期もありました。

 

しかし使い捨てられる日雇い労働者を支援する労働組合やボランティア団体の人々が集まり、山谷地区は次第に福祉の街へと変貌していったのです。そのあたりはこの本を始め、いろいろ出版物も出ていますのでご参照ください。

 

数年前、私は『山友会』というキリスト教系のボランティア団体で、主に隅田川沿いのブルーシートで作られたブルーテントで生活する人たちに食事を配りながら、健康確認や安否確認をする活動のお手伝いをしていました。

その時に身寄りのないおじさんたちのホスピス『きぼうのいえ』の事を知り、そこの責任者だった山本ご夫妻にもお会いして、施設内を見学させていただき、最上階の礼拝堂にも案内していただいた記憶があります。

 

40歳代後半か、50歳代前半のお若い穏やかな感じのお二人が、二億円近い借金をして、立派なホスピスを立ち上げ、若いスタッフさんを何人か抱え、本当にすごいと感心しました。

日本のオスカー・シンドラーマザー・テレサと呼ばれたこのご夫妻の事はテレビで幾度か紹介されたので、ご記憶の方も多いのではないかと思います。

 

ある時『きぼうのいえ』の山本さんの名前で、一般の人も入れるようなホスピスを創るための寄付を募るお手紙を頂きました。早速、当時出来るだけの寄付をさせていただきましたが、その後、その話がどうなったのかいつの間にか立ち消えになってしまいました。

まあ、何か事情があったのだろうなあと考えていつしか忘れておりました。

 

そんな頃、山本さんのパートナー美恵さんが「きぼうのいえ」の男性職員と共にいなくなったと知りました。

女性週刊誌が『山谷のマザー・テレサ 不倫 駆け落ち?』とスキャンダラスに報じ、皆ショックを受けました。

でも私にも離婚経験があります。絶対に本人たちにしかわからないのっぴきならない心理状態や事情があったのだと思い、当事者たちを批判する気にはなりませんでした。

むしろショッキングな別れ方をした山本さんや、後を引き継ぐ方たちのご苦労が思われて心配でした。

この辺りの事情が、『マイホーム山谷』には詳しく書いてあります。

 

本を読んで知ったのですが、私がお会いしたころの山本さんは既に精神的な病気を患っていて、その苦しみから逃れるために、かなりお酒を飲んでいたようです。奥さんの美恵さんはその事を職員には隠して、孤軍奮闘していたのですね。

 

美恵さんが去った後、山本さんは統合失調症の症状が出始め、お酒もひどくなり、2018年『きぼうのいえ』を去ることになりました。

そして今では生活保護を受給するようになっているようで、あの時の山本さんを思い出すととても切ない気持ちになります。

美恵さんは看護師としてしっかり働いていらっしゃるようで、安心しました。

 

お二人が力を合わせて作り上げた『きぼうのいえ』は、いまも山谷地区でホスピスとして重要な役割を果たしています。そして山谷地区全体が、他では見られないほど充実した手厚い福祉の街となっていて、山本さんは現在、昔のお仲間に支えられて生活されているようで、それが救いです。

 

おじさんたちの血と汗と涙が沁み込んだ山谷という街が、ボランティア精神にあふれた人々を引き寄せ、温かい福祉の街になっていることを知り、心がほっこりと温かくなりました。

この本の著者末並氏も、いつの間にか山谷のボランティアに変身されているようで、山谷という街の不思議な力を感じます。

 

世の中の底辺で苦しんできた方々のために力の限り頑張ってこられた山本さん、美恵さんお二人を始め、山谷で頑張っている方々のご多幸を、心からお祈りしています。

そしてこれからも、貧者の一灯で山谷のおじさんたちを応援し続けていきますね。

 

 

 

           北千住のスピリチュアルな占い師   安 寿