アフガニスタン支援団体ペシャワール会の会報NO142号が届きました。
(以下、会報NO142号より)
ペシャワール会のスタッフがこの会報を発送しようとしていたちょうどその日12月4日に、30年余アフガニスタンに貢献してきたペシャワール会現地代表の中村哲氏が凶弾に倒れました。
ペシャワール会は1983年9月、中村哲医師のパキスタンでの医療活動を支援するために結成された非営利団体で、私も中村氏の活動を知ってから、ほんのささやかな応援の気持ちを送っていました。
1984年、医師としてペシャワールに赴任して、ハンセン病治療を中心に難民や貧困層の診療に携わっていた中村哲氏は、2000年の大干ばつをきっかけに、アフガニスタンの人々を救うには医療だけでは不十分であると考え、清潔な飲料水を確保するための井戸を掘ることを始めとして、砂漠化した大地を潤して農業を復活させ、安定した生活を取り戻すことがアフガニスタンの平和の基礎だと考え、『緑の大地計画』を立てて、医療活動の傍ら、治水灌漑事業も開始し、用水路や分水路、貯水池などを造り続け、この30年間で16,500ヘクタールの土地に水を供給し、農村の復活を果たしてきたそうです。
今年(2019年)10月7日、中村医師の長年の功績を称え、市民証が贈られることになり、その授与式がアフガニスタンの大統領官邸において行われました。
大統領は以前経済大臣をしていた時から水と農業の問題に関心を持ち、いろいろ研究されていたのですが、今までのどの援助も話や理論ばかりで成功したものはなく、これというものに出会えずにいたところ、昨年中村氏の著書「緑の大地計画」を手にし、何度も熟読し、『これがアフガニスタン復興のカギだ』と感銘を受けたとのことです。
ですから授与式で中村医師とお会いになった大統領はすごく喜ばれ、5分間もの長い抱擁で挨拶を交わされ、大統領自らが中村哲氏に市民証を手渡したのだとか。
そして「あなたは暴れ川であるクナール河からの取水を可能にして、ナンガラハル州で農地を復旧し、さらに拡大した偉大な方で、わが国民の生活を救ってくれました。ここにわが国の市民証を授与します。私たちはあなた方が苦労の末に確立した*PMS取水方式により、アフガニスタン国の復興に取り組んでいきたい。あなたのご長寿を心からお祈りします。」と述べられたそうです。
*ペシャワール会=PMS(Peace Japan Ⅿedical Services)
市民証受与後のメッセージの中で中村氏は次のように述べています。
「アフガニスタンは年々農地の乾燥化が進み、農業不振で危機的な状況が生みだされつつあります。温暖化による最大の犠牲者の一つがアフガニスタンです。私たちの試みが、この絶望的な状況の中で、多くの人々に希望を与えると共に、少しでも悲劇を緩和し、より大きな規模で国土の回復が行われることを希望します。」
そして今回の会報の冒頭に中村氏が寄せた『凄まじい温暖化の影響』の中には、
「それでも依然として『テロとの戦い』と拳を振り上げ、『経済力さえつけば』と札束が舞う世界は、沙漠以上に危険で面妖なものに映ります。こうして温暖化も進み、世界がゴミの山になり、人の心も荒れてゆくのでしょう。一つの時代が終わりました。
とまれ、この仕事が新たな世界に通ずることを祈り、真っ白に砕け散るクナール河のはつらつたる清流を胸に、来る年も力を尽くしたいと思います。良いクリスマスとお正月をお迎えください。
2019年12月 ジャララバードにて 」
中村哲氏のこの文章はアフガニスタンのことを言っているのだと思いますが、なんだか日本や世界に向けても言っているような気がします。
彼の人間の愚かしさに対するあきらめというか疲れのような気持ちも感じます。
それでも『この絶望的な状況の中』にあっても望みを捨てずに、大自然の営みに勇気づけられ、また気持ちを新たに頑張ろうと決意している彼は本当に強く立派です。
一つの時代が終わったとは何を指しているのでしょうか?
アフガニスタンの大統領選挙のことでしょうか?
日本の国が平成から令和になったことでしょうか?
それともまた別のことだったのでしょうか?
この文章を書いてから数日後に彼が亡くなったことを考えると、とても意味深いものに感じます。
『絶望的な状況』はアフガニスタンに限ったことではありません。
戦後これまでにないほど日本の民主主義は力を奪われつつありますし、世界を見ても大国のエゴが恥ずかしげもなくむき出しになってきて「社会正義」という言葉が死語に近くなってきていると感じます。
温暖化の影響は日本でもすさまじく、梅雨明けの集中豪雨や大型の台風となって、毎年広範囲の地域に打撃を与え、復興が遅々として進まない中、軍事費が増え続けています。
福島の原発問題が解決していないのに、原発が再稼働されつつあります。
大地震の脅威もあります。
来年の世界、日本はどうなっていくのでしょうか?
中村氏が憂えていた温暖化に歯止めがかかり、世界がゴミの山になるのを回避し、人の心がすさんでいかないような方向に、世界は進んでいくのでしょうか?
いえ、どうしても進めていかなければ、人類の未来はありません。
中村哲氏の不屈の魂に励まされて、『絶望的な状況の中』にも一縷の望みをつないで、世界の片隅で新たな年も自分のできる精一杯のことをやっていかなければと思います。
中村哲氏のご冥福を、心からお祈りいたします。
皆様良いお年をお迎えください。
北千住のスピリチュアルな占い師 安 寿