安寿の小径

北千住のスピリチュアルな占い師 安寿のブログ http://anju.cho88.com/

最近、嬉しかったこと

すっかりご無沙汰してしまいました。
確定申告もやっと終わり、ホッとしている所です。


時間ができたので、グループホームにお世話になっている長姉を、一月ぶりに尋ねました。


しっかり者で、母親代わりによく面倒を見てくれた姉が80歳を過ぎるころから認知症を患い、いよいよ一人暮らしが難しくなってきて、本人の希望もあって、昨年暮れから現在のグループホームにお世話になることになったのです。


本人も納得してお世話になることにしたのですが、入所した当初は、何度も帰ると言いだして、姪を困らせたようです。
先月私たちが行った時にも、着替えが風呂敷に包んであって、いつでも帰れるようにしてありました。


余りそういう施設を知らない私には、そのグループホームが暗く感じられ、ぼんやりとテレビを眺めているお年寄りに交じって、同じようにぼんやり座っていた姉の姿にショックを受けました。


実際には洗濯物を畳んだり、なるべく日常生活に近い生活になるような工夫がされているという事で、天気の良い日は散歩にも行くらしいのですが、その時は入所してまだ三週間しかたっていないのに、姉の歩き方が遅くなっているのが気にかかりました。


姉はもともとよく歩き、駅までの30分くらいの道のりを、バスに乗らずに買い物に行くような人でしたから、姉妹揃っての墓参りの時など、80歳を過ぎても、私と変わらない速度で歩き、足の遅い他の妹たちを振り返って待つくらい元気な人でした。
心なしか、表情も乏しくなっているような気もしたのです。


妹としては、認知症になっても、姉にはなるたけ活き活きとしていてもらいたいのです。
ぼんやりとテレビを見ているだけの人には、できるだけなってほしくありません。


そこで次に行くときは音楽好きな姉の為に、小さなキーボードを持っていく事にしました。


音楽好きな父の希望で、長姉は三歳からピアノを習っていたのです。
でも長姉の青春時代は戦争で、家が一軒建つくらいの値段だったと父が自慢していたピアノも、食べ物に変わってしまいました。


姉は戦後数年、会社勤めをしながら、家計を助けるために、ピアノ演奏のアルバイトをしていたのだそうです。
そのせいか、姉はジャズが好きだと言っていました。


私が子供の頃は、家にオルガンが有って、日曜日など、長姉が色々な曲を弾いてくれ、姉妹でよく歌を歌っていたことを覚えています。
そのお蔭で、私は同年代の友人たちが知らないような歌をたくさん知っていました。
父も母も、我が家は全員、歌や踊りが大好きでした。


その事を思い出したのです。
ラジオなどの機械ものの操作は、長姉にはもうできないので、私たちが行った時だけでもキーボードを弾かせてあげたい、それに合わせて私も歌おうと思い付きました。


施設に許可を頂いて、おそるおそるキーボードを出してみました。
始めは五番目の姉が弾くのを見ていたのですが、だんだん乗り気になってきました。


頃合を見計らって長姉をキーボードの前に座割らせました。
すると途端に、姉の小さな手が軽やかに何か聞いた事のある曲を弾き始めたのです。
長姉に曲名を聴くとチェルニーというピアノの練習曲だという事でした。
認知症でいろいろな事は忘れても、子供の頃に習い覚えたことは完璧に覚えているものですね。


その後はもう流れるように次から次へといろいろな曲が、姉の小さな手から紡ぎ出されていきます。
私はもちろんの事、今ピアノを習っている五番目の姉もびっくりです。
長姉のピアノの実力を初めて知りました。
考えてみれば、ダンスホールやレストランでピアノ演奏ができたのですから、ある程度のレベルだったのですよね。


結婚して平凡な主婦になって、姪がピアノを習っていましたが、それに付き合う程度で、日常生活の中でその才能が埋もれてしまって、ちょっともったいない気がしました。


でもそれと引き換えに、子供が立派に育ち、孫やひ孫にも恵まれています。
そして今またその才能が姉を活き活きとさせています。
これはこれでいいのかも。


父も母も我儘な所が有って、円満さに欠ける家族でしたが、正直に生きること、人に親切にすること、音楽の喜び、信仰心、これら人間にとって最も大切なものを伝えてくれたこと、それと7人の姉妹を産み育ててくれたことに、今はとても感謝しています。


一曲終わるたびに私たちが拍手すると、長姉は誇らしげで、嬉しそうです。
そんな長姉を見て、私も本当に嬉しかったです。


今回は姉の部屋の中でだけキーボードを弾きましたが、できれば部屋の外に持ち出して、他の皆さんと一緒に、キーボードに合わせて歌を歌ったりできればいいなと思っています。
喜びはたくさんの人と分かち合えば、もっと大きくなりますからね。


歌を歌う事は認知症にも良い影響があるそうですから、施設のみなさんにもご理解いただけると思います。
具体的にどうするか、こちらも少し準備が必要ですが、長姉のお蔭で、私の老後の楽しみが、また一つ増えた気がします。




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