安寿の小径

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幸福な王子

正規雇用で働く人が、全労働者の4割にもなったそうで、ますます雇用の状態が不安定になって来ているようで、若者も、働き盛りの中年も、将来の生活に不安を抱える人が増えています。
また『下流老人』という言葉も生まれ、老人たちも将来の生活に不安を抱えています。
将来に希望を持てず、不安を抱えている多くの人たちが、神様の恵みと力を見出してほしいと祈らずにはいられない毎日です。


そんなことを考えている時、ふと『幸福な王子』という童話を思い出しました。
皆さんご存知だと思いますが、オスカー・ワイルドというアイルランド生まれの詩人の書いた童話です。


街の中央に、両目は宝石で出来ており、体中が金で包まれた美しい王子の像が立っていました。
ある秋の夕方、仲間にはぐれたツバメが王子の像の足元に休んでいると、そこに王子の涙がポツンと落ちたのです。


王子には街中の人の様子がよく見えて、街中のあちこちにいる貧しい人たちのために涙を流していたのです。
そして自分の体の宝石や金をはがして、彼らに届けてほしいとツバメに頼みました。


ツバメは仕方なくその頼まれごとを引き受けていたのですが、やがて自分から進んでその仕事を引き受け、目が見えなくなった王子の為に、街の空を飛んで知ったことをいろいろ話してあげるようになりました。
貧しい人の話を聞くたびに、王子の体を覆っていた金ははがされ、宝石は外され、王子の身体は次第にみすぼらしく汚くなって行きました。


ある寒い冬の日、ツバメは王子の唇にキスをすると、消えるように地面に落ちて行きました。
その時、王子の像もパシンと音を立てて崩れ落ちてしまいました。
その夜ひとりの天使が舞い降りて、ツバメと王子の魂は天に召されたのです。


とまあ、こんなお話だったと思います。


まだ幼かった二人の息子にこの話を読んで聞かせると、息子たちは「王子様とツバメさんかわいそう」と涙を流したものです。
私もその時は息子たちと同じ気持ちで「なんてかわいそうなんだろう。そんなに自分を犠牲にしなくてもいいのに。お話だから、少し誇張して書いたのだろう」くらいに思っていて、自己犠牲にばかり目が行き、この物語の重要な部分に思い至りませんでした。
それ程当時の私は心貧しく、物質主義的だったのです。


でも今はこの物語の美しさがよくわかります。
そしてこの物語を読み終わった後、昔のように死んだツバメや崩れ去った王子がかわいそうだとは思いません。
心洗われたように、とても清らかで、やさしい気持ちになります。
王子もツバメもどれほど満足して自分の生涯を終えたのかが分かる気がするからです。
誰かのお役に立てた時の喜びと満足感は本当に人を幸せにしますから。


他人の為に無一文になることは出来なくとも、自分の子供を幸せにするためなら、親は自分の財産や命すら犠牲にするのではないでしょうか。
その時の親の気持ちを考えれば、王子やツバメの気持ち、少しはお分かりいただけるのではないでしょうか。
その愛を、私たちは自分の子供から世界の子供へ、世界の人へと広げていかなければならないのです。


マザー・テレサという偉大な方がいらっしゃいます。
貧しい人、見捨てられた人々に自分を捧げつくし、亡くなった時の持ち物は数枚のサリーと頭陀袋だけだったそうです。
でも世界中の人から愛され尊敬されていました。


それを思うと自分のエゴと物欲が恥ずかしいのですが、マザーを理想として、毎日の生活の中で、できるだけ自分の持っている能力や時間や体力や心を人の為に役立てるように心がけて生きたいという気持ちはだんだん強くなって来ています。


毎日が自分の怠け心、物欲、エゴとの戦いです。
でもそれはつらい戦いではありません。
自分に負けても、「たまにはいいさ、人間だもの」なんて言い訳して、くよくよしないことにしています。
でもほしいものを我慢して、エイヤッと思い切って寄付した時にはすごく幸せな気分になります。エゴと物欲に勝てた自分に満足するからです。


それから人の為に何かをしてあげると、思いがけない喜びを頂くことが有ります。
それは相手の幸せそうな笑顔と感謝の気持ちです。
それに勝る喜びはありません。
いやいやながら王子の手伝いを始めたツバメが、やがて自分から進んで手伝い始めたのには、そんなご褒美があったからだと思います。


自分自身を捧げ切ることはなかなか出来ないことだと思いますが、大変な事、苦しい事の中にこそ本当の喜びがあるのだという事を一度でも経験すれば、奉仕的な生活は苦しいものではなくなります。


あの当時、子供たちにこの事を伝えられなかったことが残念です。
でも幸いなことに、子供たちは世の中の弱者に目を向けられる人に育ってくれました。
『龍の子太郎』じゃありませんが、母子で力を合わせ、世の中の壁を少しでも突き破っていきたいですね。



           北千住のスピリチュアルな占い師    安 寿