安寿の小径

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フジ子・ヘミング 魂のピアニスト

先日、念願のフジコ・ヘミングさんのピアノ・ソロ・リサイタルに行ってきた。


フジコさんは『魂のピアニスト』としてあまりにも有名で、いまさら私がご紹介するまでもないが、日本人でピアニストのお母様と、画家で建築家のロシア系ドイツ人のお父様のもとに、1932年、ドイツのベルリンで生まれた。


5歳の時日本に帰国し、17歳でコンサートデビューし、NHK毎日コンクール音楽賞受賞など、早くからその才能を評価されていたが、30歳でドイツに留学する。


様々な困難を乗り越え、レナード・バーンスタインに認められるが、ウイーンでのリサイタル直前に聴力を失うというアクシデントに見舞われる。


ピアノ教師をしながら耳の治療をし、演奏活動も続けていたが、母の死後、1995年、63歳の時に帰国。
1999年2月NHKで紹介されてから一躍有名になった。


なぜNHKに紹介されたかと言えば、何人もの世界的な音楽家に絶賛されるほどの才能を持ちながら、彼女の人生があまりにも過酷であったからだ。


私もその時の報道を見て、彼女の大ファンになった一人である。


その時の事をご本人は、
『私は、今、「どうにでもなれ」と思っていた人生の夕暮れに、波に押し上げられたように「人騒がせ」の人物に祭り上げられたようです』と、述べている。
(『フジ子・ヘミング 魂のピアニスト』求龍堂より)


私は今回初めて彼女の生演奏を聞かせていただいたが、彼女が『魂のピアニスト』と呼ばれる理由が分かった。


私のような音楽の素人の心を、こんなにも掴んで揺さぶるのだから。


ピアノ・リサイタルでは、曲の説明をしたり、いろいろお話してくださるピアニストもいらっしゃるが、フジ子さんは、2時間余りのリサイタルで、アンコール曲の題名を告げただけだった。


一切の無駄を省き、全ての力をピアノ演奏に注いでいるといった感じだった。


例のように奇抜な衣装でステージに現れ、型通りのお辞儀をしてからすぐにピアノに向かって弾き始める。
一曲が終わっても手をだらんとさせるだけで、一呼吸おいて次の瞬間にはもう手が鍵盤に置かれ、次の曲を弾き始める感じで、次々とショパンの『12のエチュード』とバッハの曲を1時間ほぼぶっ続けに弾き続ける。


15分の休憩の後、また今度はムソルグスキーの『展覧会の絵』を15曲ぶっ続けに弾いて、その後、リストの練習曲『ため息』を弾き、最後に、パガニーニの『ラ・カンパネラ』だ。


アンコールのショパンの曲が終わった時には21時を15分過ぎていたから、演奏開始から2時間ぶっ続けに弾いていたことになる。


80歳のちょっと小柄に見えるフジ子さんのどこにあんな力があるのだろうと思えるほどの迫力。


上野文化会館大ホールいっぱいの聴衆が、皆一斉に、フジ子さんのピアノの音に集中して、張りつめた空気を感じる。
息をするのがためらわれるほどのシーンとなった空気。
曲と曲の間に誰も咳払いなどする人がいないのも不思議だった。


ショパンやバッハは大好きだから楽しめたことはもちろんだったが、ムソルグスキーの『展覧会の絵』はピアノソロでは初めてだったので、どんなふうになるのかと思っていたが、フジ子さんの演奏は、本当に展覧会でいろんな絵を見ていくときのように、次はどんな絵と出会うだろうと想像を掻き立てられたり、出会った1枚1枚の風景画をじっくり楽しむような面白さがあった。


最後の『ラ・カンパネラ』は圧巻だった。
この感動はなんなんだろう。何が、音楽の事などろくに知りもしない私の心まで、こんなに揺さぶるというのだろう。


美しいというのとも違う。
酔いしれるというほど官能的でもない。
もっと深いところで、心が打ちふるえているのだ。嬉しくて。
「そうよ、そうよ、そうなのよ!」という感じ。


彼女の人生のすべてが込められているからなのだろう。
彼女の魂が鍵盤を通して聴衆に語りかけているからなのだろう。
フジ子さんが『魂のピアニスト』と言われる訳だ。


それほど音楽会にも行っていない私が言うのもおこがましいが、言わせてください。
この年齢になるまで、音楽会で、これほど深く感動したことはなかったと。
2時間、これほどたっぷり音楽を満喫したこともなかったと。


チケット代、私にとっては思い切った金額だったが、今は安いくらいだと思っている。


最後にフジコサンの言葉
『ぶっ壊れそうな鐘(ラ・カンパネラ)があったっていいじゃない。機械じゃないんだから』
『私の人生にとって一番大切なのは、小さな命に対する愛情や行為を最優先させること。自分より困っている誰かを助けたり、野良一匹でも救うために人は命を授かっているのよ。』


         北千住のスピリチュアルな占い師  安 寿