安寿の小径

北千住のスピリチュアルな占い師 安寿のブログ http://anju.cho88.com/

『ヤコブへの手紙』を見て

久しぶりに心に沁みる良い映画を見た。
フィンランド映画ヤコブへの手紙』だ。

美男も美女も出てこない。ただ美しい自然に囲まれたフィンランドの片田舎、雨漏りのする古ぼけた牧師館と、まるで手作りではないかと思えるような、おとぎ話にでも出てきそうな古い教会が実にいい。


登場人物は四人だけ。
盲目の老牧師ヤコブ
殺人罪で12年間服役していた女レイラ
釈放になっても、どこにも行くところのないレイラを、ヤコブのところへ行くよう説得した刑務所長
郵便配達の男


盲目の牧師ヤコブは、毎日各地から送られてくる相談者たちからの手紙を読み、それに返事を書いてもらうために、出所してもどこにも行く当てのないレイラを雇う。


牧師が親切にもてなそうとしているのに、レイラは「私は永くいませんから」とか「家事はしませんよ」などと人情のかけらも見せない。
盲目の老人が手探りで入れてくれたお湯の入ったカップを持って、さっさと老人に一番遠いテーブルの席に着き、自分のカップにだけインスタントコーヒーを入れて平然としている。
パン切りナイフで、牧師の目が本当に見えないかどうか試すような人間だ。


毎日手紙を届けに来る郵便配達の男が心配するほど、レイラはふてぶてしく、受け取った郵便物も半分近く捨ててしまうほどで、無力な老人に何か危害を加えそうな危険な感じがする。


ある日、私服姿の郵便配達の男が牧師館に忍び込んでいた。牧師を心配しての事かもしれないが、レイラに見つかって、脅される。


なぜかそれ以来、あれほど毎日届いていた郵便物がぱったりと来なくなり、生きがいを失った牧師は次第に精神的に不安定になってゆく。


ある日牧師は結婚式があるからと言って、式服に身を包み教会に出かけていく。
しかしそれは役立つ人間でいたいために牧師が創り出した幻想だった。


おかしいと思って後を追って来たレイラが、「誰も来ない」と冷たく言い放つ。


礼拝堂の中で牧師ヤコブは、混乱してしまう。
そして、今まで自分が人のためにしてきたと信じていたことが、実は人のためではなく、自分がその仕事を通じて生かされてきたのだと気付く。
相談者からの手紙を読み、その人のために祈り、返事を書いて励ますことは、『神が私を天国に導くために与えてくれたもの』だったのだと気付く。


「自分はもう、誰からも、神からも必要とされない人間になってしまった」とヤコブは嘆き絶望する。


レイラも、取り乱す老牧師を目の当たりにして、ショックを受ける。
牧師が連れて帰ってくれるように懇願するのだが、レイラは彼をそこに置き去りにして自分一人牧師館に帰ってしまう。


レイラは、嘆き悲しむ老人を見たくなかったのだ。老人の深い絶望と孤独が怖かったのかもしれない。
牧師館に帰ったレイラは、逃げ出そうと荷物をまとめてタクシーを呼ぶ。
しかし、タクシーが来ても、レイラは運転手に行く先を告げることができなかった。
レイラには行く当てがなかったから。


レイラもまた絶望し、自殺しようとする。
その時、ようやく帰ってきた牧師が、物音に気付き「レイラ、帰ってきてくれたんだね」と無邪気に喜ぶ。


その姿に、レイラはやっと心を開くのだ。
あんなに冷たい仕打ちを続けてきた自分なのに、牧師は自分の存在を喜んでいると…。

手紙は相変わらず来ない。
おりしも毎日雨が続き、古い牧師館はあちこち雨漏りがする。
新しい牧師館に変えてもらえばいいのにと言うレイラに、老牧師は、あえて新しい牧師館に移ろうとは思わないと言う。
そんな古い牧師館を牧師ヤコブは愛しているのだ。役に立たなくなった自分を受け入れたように、老牧師ヤコブは、雨漏りのする古い牧師館に安らぎを感じている。


牧師は下着姿でベッドに寝転んでいることが多くなる。


雨の上がった日、元気のないヤコブを見かねたレイラは、郵便配達の男に、何か手紙を持ってくるように合図すると、郵便配達夫は一冊のファッション雑誌みたいなものを渡す。


レイラはそれを手紙だと牧師に偽って、以前のように庭のテーブルに腰掛けて、牧師に嘘の手紙を読もうとするが、うまく嘘がつけない。
そこでレイラは初めて自分の身の上を手紙と称して話し出す。


当然牧師はそれがレイラの身の上話だと気付く。


幼き日、自分を母親の暴力からかばってくれた姉が、結婚して、その夫から暴力を振るわれているのを見て、レイラはその夫を殺してしまったのだった。


姉の愛する夫を殺してしまったと気付き、レイラは愛する姉との連絡を自分から断ってしまったのだった。


しかしその姉が、実は妹を心配し、ヤコブにずっと妹の釈放を願う手紙を書き続けていたことをレイラは知る。


ヤコブは、その手紙の束をレイラに渡す。そして嬉しそうに彼女のためにお茶を沸かしに部屋に入っていく。


ラストは映画で楽しんでね。
飯田橋ギンレイホールで、11月11日まで上映中)



人はパンが無ければ生きていけないが、愛が無くても生きるのは苦しい。
人のためにすることは、すなわち自分のためにすること。
人はお互い生かし生かされているのだ。
そのことに気付き、人間関係を大切にしよう。


もしあなたのそばに家族や友人の手があるなら、愛を込めてしっかり握ろう。
人と人とのご縁を大切にしよう。
見終わった後、素直にそんな気持ちになる映画だった。


明日、水曜日は、山谷地区のアウトリーチの活動に参加する日。
皆さんにお渡しできるのは一袋のパンだけれど、思いっきりの笑顔で、皆さんに、愛を伝えてこよう。
そして私も、その活動を通して元気を頂いているのだと感謝しよう。


         北千住のスピリチュアルな占い師  安 寿